
企業の持続的成長を支えるためには、経営戦略と連動した人材育成が欠かせません。本コラムでは、経営ビジョンと一体化した人材育成方針をどのように策定し、実行していくか、その重要性と具体的なアプローチを4つのステップに分けて解説します。現場での実践を通じて得られた知見をもとに、経営目標達成に向けた効果的な人材育成のポイントをお伝えします。
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人材育成方針とは、企業が将来ありたい姿を実現するために、企業の将来を担う人材をどのように育成するかの指針を示したものです。この方針は、従業員の教育・研修、キャリア開発、評価制度、リーダーシップ育成など、人材育成に関する多岐にわたる取り組みを包括的に定めます。具体的には、以下のような要素を含むことが多いです。
このように、人材育成方針は企業が長期的な成長を目指すために、従業員一人ひとりがどのように成長し、どのように組織全体に貢献するかを示す重要な指針となります。
なお、2023年1月31日に金融庁が「企業内容等の開示に関する内閣府令」を改正し、有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄において、人材育成方針・社内環境整備方針および関連指標の開示を必須記載事項として求めることとなったため、方針の明文化は制度対応としても重要度が増しています。
企業が持続的な成長を遂げるためには、優れた人材の確保と育成が不可欠です。人材育成方針は、企業が将来ありたい姿を実現するために、どのような人材を採用し、どのように能力開発し、どのように評価して処遇するかの方針を示すものであり、その役割は多岐にわたります。

人事戦略の上位には、企業理念(ミッション・ビジョン・バリュー)と経営戦略が存在します。人事戦略に人材育成方針があることによって、導入した人事施策が実際に効果をあげているかを、定量・定性的に評価する基準にもなります。この評価によって、効果的な施策を継続する、施策の見直しが建設的に可能になります。
人材育成方針は、企業のビジョンとミッションを具現化するための重要な手段です。例えば、イノベーションを重視する企業であれば、創造力や問題解決能力を持つ人材を育成する方針が求められます。
明確な育成方針とキャリアパスが示されることで、従業員は自身の成長とキャリア形成に対する期待を持つことができます。これにより、従業員のモチベーションが高まり、生産性の向上にもつながります。
しっかりとした育成方針がある企業は、従業員からの信頼を得やすく、定着率の向上につながります。従業員が企業に対して長期的なコミットメントを持つようになるため、結果として企業の競争力が強化されます。
定着率向上につながる採用体制の整備について、専門家への相談も有効な選択肢です。採用代行(RPO)の活用方法については「採用代行(RPO)のメリットとデメリット!選定のポイントや事例も解説」をご参照ください。
人材育成方針の策定には、以下のステップを踏むことが重要です。
ビジョンやミッションに基づき企業が目指したい姿を明確にし、経営層含めて合意形成を図ります。それによって、将来の姿に対して現状の姿がどうなっているのか、その差分は何があるのかを正確に分析し、人材育成方針の具体的な施策を立案・実行するにあたっての指針となります。
人材育成方針と連動した採用戦略の立て方については、「【最新版】採用ブランディングとは?戦略の秘訣と大手・中小の成功事例14選」もあわせてご覧ください。
理想の未来像と現在の人や組織の状況を比較し、その差分を明確にします。人事のどの領域の課題を改善する必要があるかを具体的に洗い出し、育成方針の優先順位や施策の目的を設定します。
ギャップ分析をもとに、企業の目標達成に必要な人材の定義を策定します。これには、採用・配置・育成・評価・処遇などが含まれ、それぞれの領域における具体的なアクションプランの方向性や評価指標も設定されます。
策定した人材育成方針に基づき、具体的な施策を実行します。定期的にその効果を評価・改善します。評価結果は次の方針策定にフィードバックされ、人材育成方針の継続的なアップデートに活用されます。
ここでは、具体的な実践事例を各社の取り組みのレベルに応じて3社ご紹介します。各企業が企業戦略に基づき、以下のように策定されています。各社で使われている用語や表現には違いがあり、同じ概念でも異なる言葉で説明されていることがあるため、参考にする際にはその点にご注意ください。
京葉銀行は、社員一人ひとりがもつ能力を最大限に発揮することができる社内環境の整備の推進するために、人材育成基本方針として、「自律的な成長を促し主体的に学ぶ企業風土の醸成」「社会人としての良識と高い倫理観」「適正な人材配置・処遇」「多様な働き方とワークライフバランスの実現」「従業員エンゲージメントの向上」「健康経営の推進」を掲げています。
エプソンでは、経営目標を達成するための人材戦略のポイントとして、「さまざまなお客様のニーズを的確に把握し、素早く、柔軟に対応できるよう事業の変革・革新」、「長期の時間軸で『人が自律的にキャリアを形成し、成長し続ける会社』として、挑戦の機会を提供」、「イノベーションを実現する創造性を高めるための多様な人材を確保し、組織の総合力を最大化」を掲げています。それに沿った求める人物像や人材マネジメントの考え方が掲載されています。また、各人事施策の実績について、定量的に開示されています。
プロダクト主体のビジネスからデジタルの力を活かしたサービスを展開するにあたり、プロフェッショナル人財への進化を求めるという基本的な考え方のもと、育成や人事制度、組織文化等の各領域における「背景と課題認識」「重点施策とKPI」を設定し、改善に向けた各種取り組みを行っています。
人材育成方針の策定について「何をどのように書けばよいかわからない」と悩む方のため、すぐに使える全業種共通の基本テンプレートと、業種別3パターンの例文を提供します。自社の経営戦略や組織文化に合わせて言葉を置き換えながら、自社固有の育成方針として仕上げてください。
人材育成方針は4要素で構成すると、読み手に伝わりやすく、かつ評価しやすい文書になります。
4要素を押さえることで、策定者が変わっても一貫した方針を維持できます。また、有価証券報告書への人的資本開示や採用ページへの掲載など、多用途に展開できる点も大きな利点です。
各要素の記載内容の目安と推奨文字数は、以下の通りです。
| 要素 | 記載内容の目安 | 文字数目安 |
| ①基本方針 | 経営ビジョンと育成の目的を1〜2文で明示 | 50〜80字 |
| ②求める人材像 | スキル・マインド・行動特性を具体的に記述 | 80〜120字 |
| ③育成の方向性 | OJT・Off-JT・自己啓発の組み合わせ方針 | 80〜120字 |
| ④KPI | 定量目標(離職率・スコア・資格取得数等) | 30〜60字 |
この表をそのまま社内ドキュメントにコピーし、〇〇部分を自社の言葉で埋めることで、最短で育成方針の原案が完成させましょう。
業種によって求める人材像や育成の重点施策は大きく異なります。同じ「コミュニケーション力」でも、製造業では「現場での指示伝達力」、ITでは「顧客課題のヒアリング力」を意味するなど、文脈が変わります。
業種特有の言葉で方針を記述することで、従業員が「自分ごと」として受け取りやすくなり、育成への主体性と学習意欲を引き出す効果が期待できます。
製造業・IT・サービス業の3業種について、例文のポイントとKPI例を整理しました。
| 業種 | 人材育成方針 例文のポイント | KPI例 |
| 製造業 | 「モノづくりを通じた社会貢献」というビジョンのもと、技術継承と改善マインドを両立する人材を育成します。OJTによる技能伝承と、Off-JTの階層別研修を組み合わせます。 | 技能検定取得率80%(2026年度末) |
| IT・SaaS | DX推進を担うプロフェッショナルの育成を最優先に位置付けます。年間20時間以上の学習機会提供と、スキルマップによるキャリアパスの可視化を推進します。 | エンゲージメントスコア75点以上・離職率8%以下 |
| サービス・小売 | 「お客様に最高の体験を提供できる人材」の育成を方針の中心に置きます。CS研修・OJT・自己啓発支援の3本柱で体系的に育成します。 | 顧客満足度スコアの継続的向上 |
例文はあくまで参考です。自社の経営戦略・現在地・組織文化と照らし合わせて独自の表現に仕上げることで、読んだ従業員が行動に移せる、形骸化しない育成方針が完成します。策定後は全社に共有し、人事評価制度と連動させる運用まで一体で設計することを忘れないでください。
人材育成方針は「作って終わり」になりがちな文書です。策定から運用定着までを確実に進めるために、全フェーズを網羅したチェックリストを用意しました。各項目を確認しながら進めることで、策定の抜け漏れを防ぎ、組織に根付く方針が完成します。
育成方針の策定前に、現状の把握と関係者の合意形成が重要です。この準備段階を丁寧に行うことで、策定後の浸透スピードが大きく変わります。経営陣だけで議論した方針は現場から形骸化しやすく、現場だけで作ったものは経営戦略との整合性が取れない可能性があります。特に「現場ヒアリング」では、人事・経営陣だけでなく現場マネージャーの意見収集が必須です。
| チェック項目 | 確認内容 | 完了 |
| 経営理念・ビジョンの確認 | 中長期経営計画と人材育成の方向性が整合しているか | □ |
| 現状スキルのギャップ分析 | 理想の人材像と現在の従業員スキルの差が定量・定性で把握できているか | □ |
| 現場ヒアリングの実施 | 人事・経営陣だけでなく現場マネージャーからの意見を収集したか | □ |
| 関係者の合意形成 | 経営層・人事・現場責任者が策定方向性に合意しているか | □ |
策定段階では「誰が読んでも同じ解釈ができる」文書化が最重要です。抽象的な表現は現場での実践につながりません。「コミュニケーション力を高める」ではなく「顧客ヒアリングで課題を構造化し提案できる力を身に付ける」のように、具体的なスキルや行動で記述することが条件です。「テンプレート・記載例の活用」チェックを飛ばすと、表現のばらつきが生じ品質が低下するため、漏れなく実施しましょう。
| チェック項目 | 確認内容 | 完了 |
| 基本方針の明文化 | 経営ビジョンと育成の目的が1〜2文で明確に示されているか | □ |
| 求める人材像の定義 | 階層別(経営層・管理職・若手)に具体的な人材像が記述されているか | □ |
| 育成手法の選定 | OJT・Off-JT・自己啓発の組み合わせと担当者が決定しているか | □ |
| KPIの設定 | 離職率・エンゲージメントスコア・資格取得数などの定量指標が設定されているか | □ |
| テンプレート・記載例の活用 | 業種や自社フェーズに合った例文を参照して文書化が完了しているか | □ |
どれほど優れた育成方針も、現場に届かなければ機能しません。全従業員への周知と管理職の理解が、方針浸透の成否を分ける重要工程です。管理職が方針を自分の言葉で部下に説明できる状態を作ることが、現場への定着を大きく左右します。未完了項目が残っている場合も、一度に全項目を完成させる必要はありません。優先度の高いフェーズから着手し、PDCAを回しながら精度を高めていきましょう。
| チェック項目 | 確認内容 | 完了 |
| 全社共有の実施 | 全従業員に方針が説明・配布され理解されているか | □ |
| 管理職向け研修 | 管理職が自分の言葉で部下に方針を説明できる状態か | □ |
| 人事評価制度との連動 | 育成方針が人事評価・昇格基準に反映されているか | □ |
| PDCAサイクルの設計 | 定期レビュー(半期・年次)のスケジュールと担当者が決まっているか | □ |
| 開示対応の確認(上場企業) | 有価証券報告書への開示内容・指標が整備されているか | □ |
人材育成方針の策定・運用にあたって、人事担当者や経営者から特に多く寄せられる質問をまとめました。導入前の判断材料や、策定後の運用改善にお役立てください。
急速な技術革新やグローバル化の進展により、企業は変化への迅速な対応を求められる中で、従業員が持つべきスキルや能力も変化が進んでいます。また、働き方改革やダイバーシティ推進の観点からも、多様な人材の育成が求められています。これらの社会的背景から、人材育成方針に注目が集まっています。
以下のような特徴を持つ企業では、人材育成方針の策定が特に効果的です。
人材育成方針を進める際に企業がつまづきやすいポイントとして、以下の3つが挙げられます。
人材育成方針の策定には、以下の部署や担当者が主体的に関わることが重要です。
A:人材育成方針は「どのような人材を育てるか・なぜ育てるか」を定めた上位概念であり、数年単位で変わらない中長期の指針です。一方、人材育成計画は「誰を・いつ・どの研修で育成するか」という実行レベルの文書で、基本的に毎年度見直します。
方針なき計画は単発の研修羅列になりがちで、施策同士のつながりが見えにくくなるため注意が必要です。「方針→計画→実行→評価」の順で設計することで、育成施策に一貫性が生まれ、経営戦略との連動も実現します。
A:少なくとも年1回の定期レビューが推奨されます。加えて、経営戦略の大きな変更・M&A・事業多角化などが発生した場合は随時見直しが必要です。一度作った方針を放置すると、経営環境や求められるスキルの変化に対応できず、形骸化したまま運用され続けるリスクがあります。見直しの際は、KPIの達成状況・現場からのヒアリング・離職率の変化を根拠として示すことで、経営陣と現場が納得できる改訂につながります。
A:浸透のカギは「管理職が自分の言葉で部下に説明できる状態を作る」ことです。人事・経営陣の理解にとどまる方針は、現場で実行されず形骸化する可能性があります。具体的には、以下の3ステップが有効です。
方針を年度初めの1回だけ共有して終わりにせず、1on1・評価面談・朝礼などの日常的な接点で繰り返し触れる運用設計が、方針の定着を促すポイントです。
人材育成方針と採用活動を一体で設計したい場合は、採用コンサルティングの活用も選択肢のひとつです。「おすすめの採用コンサルティング会社30選 具体的なサービス内容や選び方までご紹介」で詳しく解説しています。
レジェンダ・コーポレーションでは、人事育成方針の策定支援や人事制度運用の伴走支援を行っております。また、採用や労務管理、健康経営のサポートや業務アウトソーシングなど、人事に関することなら幅広くサービス提供しています。
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