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人的資本経営を実装するためのグランドデザイン戦略的投資基盤の構築 ― ステークホルダー視点でのDB設計と業務フロー整流化(BPR)

第4章

最終更新日:2026年7月10日

【注】本章で扱う「人事データベース設計」は、狭義のデータ項目や構造(テーブル)設計に留まらず、ステークホルダーの意思決定を支えるI/O設計と、それを無理なく回すための業務フロー整流化(BPR)までを含む広義の設計を指します。ただし本コンテンツにおけるBPRは、顧客の人事業務を「ゼロから抜本的に作り替える」ことを目的とするものではなく、現状(As-Is)を棚卸しした上で、二重作業や手作業のつなぎ込みを排除し、標準化・省力化された形でデータが正しく流れるように業務フローを整流化することを指します。以降、BPRはこの意味(整流化)で用います。

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人事データベースは「誰のもの」か?(ステークホルダーの再定義)

第3章までで、人事バリューチェーンの「あるべき姿(To-Be)」と、それを診断・再設計する視点を整理しました。次に問うべきは、そのTo-Beを机上の空論で終わらせず、誰の意思決定を支える基盤として、どのようなデータを、どのように蓄積・流通させるかという設計です。しかし、システムの選定や要件定義に入る前に、人事バリューチェーンを考える上で本質的な問いに向き合う必要があります。それは「人事データベースは一体、誰のためのものか?」という問いです。

これまで、人事システムは主に「人事部門が労務管理や給与計算といった定型業務を間違いなく、効率的に処理するためのもの」として構築・運用されてきました。しかし、人的資本経営の文脈において、人事データから価値を引き出すべきステークホルダーは人事部門だけに留まりません。

自社の人的資本のポートフォリオを俯瞰し、中長期的な戦略投資の判断材料にしたい「経営層」。新規プロジェクトを立ち上げる際、自部門にはいないが社内のどこかに眠っている適切なスキルや経験を持った人材を発見し、素早く抜擢したい「事業部門の責任者」。そして、自らのキャリアヒストリーやスキルの成長軌跡、評価のフィードバックを透明性を持って知りたい「社員本人」。これら多様なステークホルダーが、それぞれの目的でデータにアクセスし、必要な情報を引き出せる状態を創り出すことこそが、人事データベースを「戦略的投資基盤」へと昇華させる第一歩となります。

ステークホルダーごとの「I/O(インプット/アウトプット)」設計

ステークホルダーが多様化するということは、データベースに対して求められる「見たい情報(アウトプット)」と、それを生成するために「入力すべき情報(インプット)」の要件が複雑化することを意味します。このI/O設計を一気通貫の思想で整理することが、グランドデザインの実装における最重要課題です。

例えば、「事業部門の責任者」がアウトプットとして「特定のコンピテンシーと過去のプロジェクト成功体験を持つ人材のリスト」を抽出したいとします。そのためには、採用時の評価データ、配属後のMBO(目標管理)の達成度、研修の受講履歴、さらには日々の1on1でのキャリア志向といったデータが、継続的にインプットされていなければなりません。同様に、「社員本人」がアウトプットとして「自らの成長度合いと次のステップに必要なスキル」を確認したいのであれば、評価会議の結果が単なるアルファベットの記号ではなく、具体的な行動事実に基づくフィードバックデータとして本人に還元される設計が必要です。

誰の、どのような意思決定を支援するためのデータなのか。この明確な「目的(アウトプット)」が不在のままシステムを導入しても、現場に入力負荷だけが増え、十分に活用されない状態になりがちです。だからこそ、先に必要なのは製品比較ではなく、意思決定と業務運用に沿ったI/O設計です。

システム導入の前に不可欠な「BPR(業務フロー整流化)」

I/O設計が完了しても、すぐにシステムの選定や開発に飛びついてはいけません。従業員数が一定以上の企業においては、給与計算、勤怠管理、採用管理、LMS(学習管理)といった何らかのツールがすでに導入されています。しかし、第1章で指摘したとおり、それらは機能ごとに分断されているケースが大半です。

この断片化されたツールの隙間を埋めるため、実務の現場では「採用システムからCSVを書き出し、手作業でExcelに加工して評価システムに取り込む」といった“名もなき業務”が日常的に発生します。レジェンダが重視しているのは、こうした現場の実態を前提に、既存システムやExcel等の現有資産を生かしながら、どこに二重入力や手作業の断絶があるのかを見極め、無理のない形で整流化することです。現状の業務プロセス(As-Is)を丁寧に棚卸しせずに新たな仕組みだけを上乗せすると、現場の負荷と混乱を増やし、かえってデータ品質を損ねかねません。

とりわけ従業員数が一定規模以上の企業では、単一の人事システムで採用・配置・評価・育成・労務までを無理なく整合的にカバーすることが難しいケースも少なくありません。実務上は、基幹人事、勤怠、給与、採用、評価、学習管理など複数のシステムを組み合わせて運用せざるを得ない企業も多いのが実情です。だからこそ重要なのは、「どの製品が優れているか」を先に比較することではなく、どの業務をどのシステムが担い、どのデータをどのタイミングで連携させるのかという役割分担を、BPRを通じて先に設計・統制することです。

したがって、システムの実装前に「BPR」を実施し、日々の業務を遂行する中で「二重作業が防がれていて、かつ正確にデータが蓄積・連携されるフロー」へと、入力・承認・連携の手順を整理し直す必要があります。不正確なインプットからは、誤った意思決定しか生まれません。現場の入力負荷を最小化し、インプットの品質を仕組みで担保できる業務フローを整えることが、システム導入の成否を決定づけます。

統合的プラットフォームによるバリューチェーンの実装

ステークホルダーの再定義、一気通貫のI/O設計、そしてBPRによる業務フローの整流化(標準化・省力化)を経て、初めて自社に適したテクノロジーの選定へと進むことができます。

ここでいう「統合的プラットフォーム」とは、必ずしも単一の製品ですべてを完結させることを意味しません。自社の規模や既存資産を踏まえれば、複数のシステムを組み合わせる前提のほうが現実的な場合もあります。重要なのは、採用から定着までのバリューチェーン全体を見渡した上で、各システムの役割分担とデータ連携の責任分界が明確になっており、現場の運用負荷を過度に高めることなく、一気通貫でデータが流れる状態を作れているかどうかです。

目指すべきは、採用から配置、育成、評価、そして定着に至るまでのあらゆるプロセスがデータとして繋がり、一元的に管理・分析できる統合的なプラットフォームです。この基盤が完成することで、これまで見えなかったプロセス間の因果関係が可視化されます。例えば、「勤怠データ上の残業過多」と「MBOの達成度低下」という異なるデータがシステム上で結びつくことで、メンタルヘルス不調や離職の予兆を事前に検知し、早期に介入(リテンション)するといったアクションが自動的に機能し始めます。

この基盤を手に入れた時、人事部門はデータの収集や加工といった煩雑な事後処理から徐々に解放され、蓄積されたデータをもとに先手で施策を打つ余地を広げられます。重要なのは、立派な構想図を描くことではなく、現場で入力され、承認され、連携され、使われる状態まで運用に落とし込むことです。レジェンダは、人事実務を動かしてきた立場から、設計だけでなく、現場に定着する運用まで伴走することで、この実装を支援します。

 

→ 第5章:人的資本価値の最大化 ― PDCAサイクルと「事業」への接続

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