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人的資本経営を実装するためのグランドデザインレジェンダの視座 ― なぜ「人的資本経営」は現場の実務と乖離するのか?

第1章

最終更新日:2026年6月26日

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コーポレーション”

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「人的資本経営」の理想と実務における「断絶」の正体

近年、[R1]『人』を企業価値の源泉として捉える「人的資本経営」の重要性は広く共有されるようになりました。たとえば、経済産業省の「人材版伊藤レポート」では、経営戦略と人材戦略の連動や、As-Is / To-Beギャップの定量把握が重要な論点として示されています。また、「人的資本可視化指針」でも、人的投資と競争力のつながりを説明できる統合的なストーリーの構築が求められています。こうした潮流自体は、いまや多くの企業で共有された前提といってよいでしょう。

一方で、数百名~3000名規模の企業では、人事責任者や人事部門が人的資本経営の重要性を理解していても、日々の運用負荷、システムの分断、入力負荷、データ品質のばらつきなどによって、実装まで踏み込みきれないケースが少なくありません。採用、労務、評価、育成がそれぞれ別々に運用され、必要な情報は存在していても、意思決定に使える形でつながっていない。この状態こそが、人的資本経営を理念や開示の話に留め、現場で機能する仕組みに変えにくくしている要因です。

本コンテンツでは、この断絶を埋めるために、採用から定着に至る人事バリューチェーンの再設計と、それを支えるデータ基盤・業務フローの設計を一気通貫で捉えます。人的資本経営を「理念」ではなく「現場で回る仕組み」として実装することが、本稿の主題です。

構造的課題:分断されたHRテックと一気通貫視点の欠如

なぜ、この「断絶」は解消されないのでしょうか。その背景には、HRテック市場の構造的課題と、それを受容してしまっている企業側の設計思想の欠如があります。

現在のHRテック市場を見渡すと、採用、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメント、LMS(学習管理システム)といった機能ごとにプロダクトが分断されています。各ベンダーはそれぞれの領域で利便性を競っていますが、それらはあくまで「点」のソリューションに過ぎません。

企業側もまた、その時々の局所的な課題解決のために、これらのツールを断片的に導入しがちです。「採用管理が大変だからATSを入れる」「評価制度を変えるからタレントマネジメントシステムを入れる」といった継ぎ接ぎの導入を繰り返した結果、各プロセス間のデータは分断され、一気通貫の「価値の連鎖(バリューチェーン)」を描くことが不可能になっています。

何かしらの人事データ管理ツールは入っている。しかし、それらが一つのグランドデザインの下に繋がっていない。この「データのサイロ化」が、自社の人的資本の実態を捉える解像度を著しく下げているのです。

ビジネスの普遍的原則:「投資」と「リターン」の欠如

企業活動において、何らかの工数や資本を投下する「投資的活動」には、必ずそれに見合う「効果・便益・変化(リターン)」が求められます。営業活動であれば売上や利益が、製造現場であれば生産性の向上が厳しく問われるのは当然の理です。

間接部門においても、財務や経理の領域では、会計基準という厳格なルールに基づき、全ての資金の動きが客観的な数値として記録されます。そして、その記録が適正であるかを検証する「監査」の仕組みが存在し、投資に対するリターンが常に測定・検証され続けています。

ところが、「人と組織」の領域では、投資とリターンの接続が設計されないまま施策が運用されることが少なくありません。採用であれば採用単価や充足率だけでなく、入社後の早期戦力化、評価、定着までを見たい。育成であれば受講率や満足度だけでなく、受講後の行動変化、配置後の成果、評価変化までを見たい。配置であれば異動件数だけでなく、配置後の立ち上がり期間、パフォーマンス、本人の成長実感までを見たい。評価制度運用も、回収率や期日遵守だけでなく、評価結果が育成・配置・リテンションにどう接続しているかを見なければ、投資対効果は見えてきません。つまり、人事施策のROIを考えるとは、個別施策を単発で点検することではなく、採用・配置・評価・育成・労務の連鎖のなかで、どの投資がどの成果につながっているかを追える状態をつくることにほかなりません。

「監査」視点の不在と、定量的検証の必要性

ここで強調したいのは、「人事・労務領域に監査が存在しない」ということではありません。上場企業を中心に、法令遵守や業務統制、制度運用の正確性を確認する内部監査や労務監査は一般的に実施されています。しかし、それらが主として確認するのは、適法性・正確性・リスク管理です。本稿で論点にしたいのは、その先にある「人事施策が事業成長や人材の定着・成長にどの程度寄与しているかを、バリューチェーン全体で継続的に検証できているか」という点です。

人の能力や可能性を完全に数値化することはできません。だからこそ重要なのは、すべてを数値に置き換えることではなく、観測可能な事実を蓄積し、判断プロセスを検証できる状態を整えることです。採用から定着・価値発揮に至る各工程で、どのような期待を置き、何を実行し、その結果どのような変化が起きたのかを継続的に捉える。この仕組みがあれば、人事施策を単なる運用ではなく、改善可能な投資活動として扱えるようになります。

測定ができなければ、施策によって組織が良くなったのか、あるいは悪化したのかを客観的に判断することもできません。当社がここで提唱するのは、過去のミスやルール違反をただすための、いわゆる「監査(減点法)」ではありません。それは、採用から定着・価値発揮に至る人事バリューチェーンの各工程において、「人事施策の投資対効果を定量的に測定・検証する仕組み」を導入することです。プロセスをデータで継続的にモニタリングし、経営戦略に対して最大限に機能しているかを検証できる状況を作り出すことこそが、組織の持続的成長の土台となります。

視座の転換:コスト管理から「戦略的投資」へ

人的資本経営を現場に実装するための最初の一歩は、人事部門自身の役割を「作業のコストセンター」から「事業成長を牽引する戦略的投資部門」へと抜本的に転換することです。

人事が扱うべきデータは、単に「溜めておくもの」ではなく、経営層、事業部門、そして社員本人の意思決定を左右する「武器」でなければなりません。そのためには、これまで扱われてきた氏名や住所といった「属性データ」だけではなく、採用時の歩留まりやリクルーターの活動履歴といった「行動データ」、さらにはコンピテンシー(行動特性)の充足度や成長の軌跡といった「状態データ」までを明確に定義し、収集する必要があります。

重要なのは、「難しいから定量化を諦める」ことでも、「現場の感覚を否定する」ことでもありません。自社の各プロセスで、どこが主観的判断に依存しているのか、どこでデータの断絶が起きているのかを整理し、現場で回る形に落とし込んでいくことです。本コンテンツで提示するグランドデザインは、そのための設計図です。人事が経営と現場をつなぎ、人材の「定着」と「持続的成長」を実装していくための土台として、次章以降で具体化していきます。

次章では、この「感覚からデータへ」の転換を、単なる計測手法の導入に留めず、未来の事業戦略から逆算して人事の全プロセスをどう設計し直すべきかという「グランドデザイン」の視点から具体化していきます。

 

→ 第2章:経営戦略から逆算する人事戦略の「グランドデザイン」

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