労務コラム

計算ミスに悩む給与担当とその上司の方に知ってほしい
「ミスを誘発する4つの要因」

弊社の人事・労務業務のアウトソース事業では、営業時によく聞くお客様のお悩みに「給与計算ミスが多い」というものがあります。その場合、「ヒューマンエラー(人的ミス)が多くて」「うちの担当者がまだ慣れていないもので」というお話をお伺いすることがあります。

確かに、経験の浅い担当者が給与計算を間違うことは多々あります。
しかし、そもそも経験の多寡でそれほどまでに給与計算のミスが頻発する状況に問題があります!

給与計算ミスを招く4つの要因

給与計算ミスは、以下の4つの理由で発生するものがほとんどです。

  1. 給与計算に必要な情報の正確性が悪い(正確な情報が連携されない。管理されていない)
  2. 担当者のスキルが足りない
  3. 給与計算スケジュールがタイト
  4. ルールが複雑

例えば、「特定の給与支給/控除項目(手当など)にミスが集中する」ならば、その項目の計算が複雑すぎるのが原因かもしれません。もしかしたら、その手当計算を行うために必要な情報の正確性の担保ができていないことも考えられます。

あるいは、「どの項目という特定はできず、様々なミスがもぐら叩き的に発生する」ならば、給与スケジュールがタイトすぎたり、担当者のスキル不足を疑うべきだと思います。

ヒューマンエラーを疑う前に、できること

上記のように様々な要因があるにも関わらず、多くの企業では給与計算ミスが多発するとどうしても2番目の「担当者のスキル」のみを問題視して様々な策を講じがちです。

例えば、以下のような対策です。

  • 人員を増やす(ダブルチェックなど)
  • 給与計算システムをアップグレードする(計算の自動化範囲を拡大する)

しかし、上記はコスト対効果の高い方法ではありません

例えば、高価な給与計算システムを導入して、複雑な計算ロジックをシステム化したとしても、設定した担当者が異動や退職等で担当からはずれれば、そのシステムはブラックボックス化して中身がわからなくなります

最悪の場合、長期間計算ミスに気づくことができなかったり、そのような事態を防ぐ目的でシステムの外で検算をするという事態さえ発生します。

人員を増やすのも、ダブルチェック方法が同じことを二人でやるのであれば、かけたコスト(二倍)ほどのミス削減効果はありません。

この「人員を増やす」「システムをアップグレードする」は、いずれも上記の4要素の他の部分(ルールの複雑性、給与スケジュールの適切さ、計算根拠情報の正確性)が適切であればこそ効果を発揮する対処方法であることをまずは意識する必要があります。

ミス削減の為にまず考慮すべきこと

給与計算ミスをへらす為に、本来行うべきは、以下の施策です。

情報の正確性を上げる

給与計算の根拠となる情報の正確性が担保されていない状況にあるとすれば、計算ミスはなくなりません。システム業界では、GIGO(ガベージイン・ガベージアウト)という言い方をしますが、インプットが正しくない(ガベージ=ゴミ)のであれば、アウトプットは正しくなりようがありません。

  • 社員の身上情報が一元管理されていない
  • 社員の身上情報の申請が紙などで行われているため、転記時のミスが多発する
  • 勤怠の締めまでに現場が正しく勤怠を入力しない

等の状況にあるのであれば、「情報の一元化」と「期日管理の徹底」を行い、まずは正確な情報に基づいて給与計算を行う体制を確立することが先決です。

給与計算のプロセスを明文化する

暗黙の判断や、属人的なプロセスを完全に排除するべきです。
担当者に過大なスキルを要求するプロセス設計はそれ自体が、破綻の原因になります。
明確なマニュアルを作成し、誰が行っても同じ結果が出る仕組みづくりを目標にしましょう。

給与計算スケジュールを見直す

給与計算のスケジュールを見直すと言っても、いくつかのポイントがあります。ミス削減の観点から、主に以下の2つが見直しのポイントになります。

給与締めから支給日の間隔は20日以上に

締日から支給日が20日を切る給与支給日が設定されている場合、まずその支給日見直しを検討するべきです。多くの企業は、20日払、25日払いをしているのは決して偶然ではなく、通常の給与計算プロセスを実行し、間違いのない計算を実現するためにはこのスケジュールの妥当性が高いからです。

勿論、10日払い、15日払いであっても、締日を前倒して、同様に20日以上の間隔を確保している会社も多数あります。

締め後の変更/修正を一切認めない

上記のように20日以上の締日→支給日の期間が設定されていても、勤怠や身上異動の締日を守らない社員がいたり、給与計算を行っている最中に情報の修正等の差し込みが何度も来るようであればスケジュールは、逼迫します。

ミスをゼロにするためには、差し込みが入らない期間を充分に確保する為の期限厳守を現場社員や上長、採用部門、身上情報/発令情報を管理する人事部内に周知徹底しましょう。

余裕の無いスケジュールは、担当者に無用なプレッシャーをかけるばかりか、「なにか」があったときのバッファーがなくなり結果として計算ミスの温床になります。また、充分な計算検証期間が取れないが故に、ミスを発見することができません

給与計算ルールをシンプル化する

企業規模に関わらず、給与計算の中に非常に複雑な手当制度などを含む会社があります。

例をあげると、家族手当(扶養手当)が、家族の扶養の有無、年齢、同居か否か、社員本人の職層、住所、他の手当の支給の有無など非常に多数の要素が絡み合って金額が確定するという場合があります。

また、通勤交通費の支給について、基本的なルールがあっても本人の申告内容等を勘案して随時通勤ルートの可否を判断されているという会社もあります。

毎月、現場に手当支給の可否を問い合わせて、手当支給対象者を決めているという会社もありました。

毎年の灯油価格情報を元に、社員の現住所に応じて、社員の家族構成、住居形態等を勘案した複雑な処理により寒冷地手当を支給している例もあります。

これらは、ルールが複雑であったり、複雑な判断が必要になることによりやはり計算ミスの温床になります。

きめ細かい制度設計が、仇になる

上記のような話をすると、「きめ細かい制度設計/柔軟な運用は従業員の為(家族手当、通勤手当)」、「働きがいを感じてもらう為に必要な制度(毎月現場に確認する手当)」、「会社が社員を大切にしているからこその運用(締切後の情報修正の許容)」という反応が返ってくることがあります。

他にも、締日と給与支給日の期間が20日を切るお客様に対して、支給日変更(後倒し)を提案すれば、「より早く給与を支給することで採用力につながっている」という反応をいただいたこともあります。

しかし、給与計算を間違えてしまえば、上記のような制度設計の効果は地に落ちます。

計算ミスが、会社の名誉を大幅に毀損するのは、勿論のことそれほどの大事にならなくても、従業員のモチベーションに非常に大きな影響を及ぼします。

人のモチベーションについてよく知られている理論に、「ハーズバーグの二要因理論(動機付け要因・衛生要因)」というものがあります。これは、モチベーションの要因は大きく分けて2つあるという理論です。

動機付け要因とは

例えば上記のきめ細かい制度設計による「会社に大切にされている感」「働きがい」などを与えることは、動機付けの要因になります(元々の理論では、達成感や承認がこのような要因になると唱えられています)

それらの施策がなくても、不満を感じるわけではありませんが、あれば満足度があがるという要因です。

衛生要因とは

元々の理論では、作業環境、給与などがその例にあげられていますが、仕事をしていく上で欠かせない要因です。すなわちこれが達成されないと不満につながる要因です

特に、給与については間違った計算をされるということは以下のような理由で致命的なモチベーション下落要素になります

  • 給与が少なく支給された場合・・・部分的な給与の遅配と捉えられます(社会問題になりえます
  • 給与を多く支給した場合・・・・・余計に支給された給与については、(公平性の観点から)後に本人に返してもらう必要があります。一度受け取ったものを返すというのは、理屈ではわかっても納得感を得にくいものです。

そういった意味で、きめ細かく柔軟で短期間で実行する給与制度や給与計算の運用は、上記の動機づけ要因になっていたとしても、そのために犠牲になる計算ミスのリスクは、衛生要因を毀損する可能性があります。

良かれと思って作った制度が上記のようなミスを誘発するとすれば、逆効果でしかないということです。

弊社では、お客様の人事・労務業務のフルアウトソースをご提案し、導入する場合、聖域なき改革の実行を旗印に、場合によってはお客様にとって耳の痛い提案をさせていただくこともあります。

それは、「第二人事部」としてお客様人事部のパートナーとして末永くお付き合いをし、人事部が本来の施策を実現する上で最適なオペレーションを行うための提言です。

弊社のサービスにご興味を持っていただけましたら、ぜひお問い合わせください。

この記事を書いた人

シニアコンサルタント(人事労務支援事業部)

1991年、新卒でアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。大手メーカーの人事情報システム設計や人事制度改革プロジェクトを手掛ける。
その後2002年にワークスアプリケーションズに入社、2009年にレジェンダ・コーポレーションに入社。
レジェンダでは金融・IT・エンターテインメント業界など複数企業のBPR、BPOを担当。

これまでのキャリアで手掛けた人事改革プロジェクト(システム、制度面)は合計30社以上にのぼり、現在も短期間の業務改革(QuickBPR)を新しく開発するなど企業人事のニーズに応えたサービス提供に定評がある。

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