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全国の人事パーソンへのメッセージ

人事部長の想い切りトーク

Vol038想い切りトーク

採用は相互理解のプロセス。人を育て、組織で革新を生む三井不動産の人材開発

掲載日: 2026年9月18日

※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。

オフィスビルから商業施設、物流施設、さらには宇宙・ライフサイエンス領域まで、幅広い分野でまちづくりを展開する三井不動産株式会社。同社ではグループ長期経営方針『&INNOVATION2030』を掲げ、既存事業の拡大・強化とともに新たな事業領域の開拓へと果敢に挑戦している。人材開発部門で採用と育成の責任者を務める鈴木氏に、自身のキャリアで得た気づきやAI時代の育成のあり方、強い組織をつくるための考え方についてお話を伺った。

PROFILE型破りな就職活動から学んだ、一流への憧れとビジネスパーソンとしての決断

  • まずはこれまでのキャリアについてお聞かせください。

    私が三井不動産に入社したのは1999年で、今年で28年目を迎えます。当時はバブル崩壊後の就職氷河期で、就職マーケットが非常に冷え込んでいました。私のまわりでも就職浪人を選ぶ学生がたくさんいるほど、厳しい環境だったと記憶しています。

    実は学生時代に、当時の通商産業省(現・経済産業省)の制度を利用し、シリコンバレーで起業した日本人経営者の鞄持ちをする経験をしたことがあります。そこで芽生えたのが、自分自身も起業したいという情熱でした。しかし、当時の私にあったのは情熱だけで、知識も技術力も資金もありませんでした。

    自分の実家が自営業を営んでいたこともあり、「このまま社会のレールに乗って企業という枠組みの中で成長していくことが正しいのか」と悩み、就職活動をやめて、アメリカに渡り自分を磨こうと考えました。ただ、渡米を実行する前に、まずは広く世の中を知っておきたいという思いもあり、理想の生き方を体現する「ロールモデル」を探すため、企業経営者や非営利団体の代表、国会議員など、業界を問わず150人以上の方にOB訪問を行うことにしたのです。そんな中、大学の説明会に来ていた三井不動産の社員2人と出会い、私は渡米計画を取りやめ、三井不動産への入社を決めたのです。

  • さまざまな大人に出会う中で、なぜ三井不動産への入社を決められたのでしょうか。

    決め手は、説明会で出会った三井不動産の社員2人の「圧倒的にかっこいい立ち振る舞い」に一目惚れしたことです。

    実は私には、スーツを着こなし、颯爽と車に乗って出かける祖父のような、かっこいい大人になりたいという思いがありました。出会った社員たちは、切れ味鋭い思考、圧倒的なコミュニケーション力、そしてビジネスパーソンとしての立ち振る舞いが洗練されており、まさに私にとっての「一流」そのものでした。

    当時は不動産業界に対して明確なイメージを持っていませんでした。しかし、幅広い分野でまちづくりを手がける「総合デベロッパー」という業態を知り、自分の手で形に残る仕事ができ、社会的なインパクトも大きいという点に強く惹かれたのも理由の一つです。彼らと一緒に働き自分自身も一流になりたいという思いから、当時の私は迷わず弊社のみを受験し、入社を決意しました。

  • 入社後のご経験について、特に印象に残っていることを詳しく教えてください。

    入社当時、バブル崩壊の影響により弊社は厳しい状況にありました。私はオフィスビルのテナントを誘致する営業部門に配属され、空室を埋めるために若手もベテランも一緒になって奔走する、部活動のような日々を過ごしたのを覚えています。暗い雰囲気を感じることはなく、むしろチーム一丸となって目標に向かう楽しさがありました。特に、六本木防衛庁プロジェクト(現・東京ミッドタウン)で入社5年目にも関わらず、希代の名経営者と言われていた富士写真フイルム(現・富士フイルム)の古森重隆社長へのプレゼンテーションを任され、入居を決めていただいたのは今でも懐かしい想い出です。

    弊社では4、5年でジョブローテーションを行うのが基本です。私は入社して5年半後に、ビルの再開発を行う事業部に異動し、NTTデータさんに本社としてご入居いただく豊洲のビル開発や、地権者の方々とともに東京ミッドタウン八重洲のまちづくり協議会の立ち上げに携わりました。特に八重洲プロジェクトでは、まさにこれから再開発が本番を迎えるというタイミングで、突然北海道支店への異動を命じられたのです。

    私たちには、短期的な組織の合理性だけでなく、中長期的な個人の成長を重視する文化があります。組織にとっては業務に慣れた人材を配置し続ける方が効率的かもしれません。しかし個人の成長のためには、定期的に環境や業務内容を変え、新天地で成果を出すという大きなチャレンジが必要だと考えています。
    私も異動先の北海道支店では、オフィスビルの建替え事業に加え、アウトレットやホテルの立ち上げに携わったほか、支店にはわずか数名しかいなかったため、弊社の代表として財界活動を担うなど、新たな経験を重ねました。
    このように、一つの専門領域だけに閉じることなく、多様な事業領域を経験することで、お客様や社会に複合的な価値を提供できる人材を育てる。街は多様な価値観や機能から成り立っています。弊社が得意とする多様な用途を一つの街に組み込み、一人のお客様に様々な価値をワンストップで提供する「ミクストユース」の考え方はここからきています。だからこそ、社員も多様なアセットや業務を経験し、複数の視点を持つことが「総合」デベロッパーとしての社会への価値創出につながる。東京ミッドタウンや日本橋の街づくりも、そうした多様な経験を持つ人材が集まるからこそ実現できるのだと思います。これが弊社のジョブローテーションの根底にある考え方です。
    そして、弊社の人材育成はジョブローテーションだけではありません。2〜3人程度の少人数チームで仕事を進め、若手にも大きな裁量を与える。若いうちから自分で考え、決め、時には失敗もする。その一方で、最後は上司が責任を持つ。「ジョブローテーション」「少人数での協働」「若手への権限移譲」という組み合わせが、社員の当事者意識を育てているのだと思います。

MISSION 困難な経験が育む当事者意識と、イノベーションを生み出す「いいね」の文化

  • 幅広い事業を展開する中で、どのような人材を求めていらっしゃいますか。

    ひと言で表すなら、能力だけでなく、豊かな人間性を備えた人材です。まちづくりの仕事は、1人で完結するものではありません。グループ会社やパートナー企業、地権者など、多様な関係者を巻き込んでいく必要があります。自分や自社の成果や目的ばかりを主張する人には誰もついてきませんし、チームで大きなプロジェクトを動かすことも難しいでしょう。

    選考で大切にしているのは、対話の中から感じられる、他者への関心や「心の余白」のようなものです。そして、解のない状況でも自分の考えをしっかりと言えるリーダーシップの素養を重視しています。単なる調整力だけでなく、「こうではないか」と自分なりの仮説を立てて行動できる人は大歓迎です。

  • 採用において、他にはどのような点を重視されていますか。

    理不尽な経験にどう向き合ったかという点も重視しています。仕事をしていれば、自分ではコントロールできない状況や、時に納得しにくい出来事にも直面します。人生の中で避けがたい困難や理不尽な事態に直面したときにどう向き合ったか。たとえ乗り越えられなかったとしても、それを自分の中でしっかりと言語化できる人は強いと感じます。
    順風満帆に見えるキャリアよりも、失敗や困難から深く学び、それを次に生かせるたくましさを大切にしたいですね。また、困っている人に寄り添った経験があるかどうかも大切にしているポイントの一つです。

  • 現在の事業展開と、イノベーションを生み出す組織風土についてお聞かせください。

    弊社は1941年の創立以来、1950年代の臨海部での埋立事業をはじめ、時代の要請に応じて事業領域を広げてきました。現在はグループ長期経営方針『& INNOVATION 2030』のもと、3つの成長の道を掲げています。1つ目は、オフィスビルや商業施設といった「コア事業の更なる成長」。2つ目は、データセンターやシニア向け住宅、工作機械を置いてそのまま製造ができる「ファクトリーオフィス」など、「新たなアセットクラスへの展開」。そして3つ目が、ライフサイエンスや半導体、宇宙領域におけるコミュニティづくりなど、「新事業領域の探索、事業機会獲得」です。

    このような挑戦を支えているのが、弊社に根付く組織文化です。社員が何か新しいことを提案したときに、頭ごなしに否定されることはまずなく、「いいね、やってみようよ」と背中を押す文化があります。加えて、ジョブローテーションによって常に新しい視点がチームやプロジェクトに持ち込まれ、現場の人間が当事者意識を持って事業を推進していく。私は、イノベーションは突出した個人の力だけから生まれるものではなく、組織の仕組みからも意図的に生み出せると考えています。弊社では「ジョブローテーション」「権限移譲」「チャレンジ精神とそれを応援する社風」によって、既存の組織や考え方を意図的に揺さぶりながら、新たな「創造」につなげていく。この仕組みが、80年を超えてイノベーションを繰り返してきた弊社の強さの一つだと思います。そして、この仕組みが続く限り、次の80年もイノベーションを興し続けていくことでしょう。

MESSAGE ミドル層が躍動する組織づくりと、生成AI時代における本質的な学びの探求

  • 採用や人材育成において、現在どのような課題を感じていらっしゃいますか。

    採用面では、新卒採用については就職活動の早期化が大きな悩みです。大学生活を2年しか経験していない学生に、人生の目標や働く意味を問うのは、時に過酷なことかもしれません。また、学生一人ひとりに異なる個性や考え方があるように、全員が弊社に合うわけではありません。採用とは、会社と学生がお互いを理解し合うプロセスだと考えています。そうした考えのもと、早い段階から自己分析を促し、本当に弊社に合うかどうかを見極めてもらうための情報提供に力を入れています。それはキャリア候補者も同じです。自己分析はこれまでの生き方や価値観を振り返ることで現在地点を知り、未来に対する自分なりの判断基準を教えてくれる人生の羅針盤になります。
    30年前と比べ、デベロッパー業界への注目度が高まり、弊社に憧れて受験してくださる方が増えているのも事実です。大変ありがたいことではありますが、厳しい言い方をすると、「三井不動産」に合格したいがために「合わせにくる」方も少なからずいらっしゃいます。憧れをいったん横に置き、自分の人生と弊社での生き方を照らし合わせて、この会社でどんなキャリアや人生を築きたいのか、この会社を通じてどんな価値を世の中に問うていきたいのかを考えてもらいたい。そこまで考えた方は面接でも光って見えますし、実際に入社後も活躍している方が多いと感じます。

    人材育成においては、生成AIとどう向き合うかが喫緊の課題です。かつては、議事録を真っ赤に添削されるような失敗経験を通じて、仕事の基礎を学んでいきました。しかし生成AIによって、誰もが整った文章を簡単に作成できるようになった今、若手にどのような困難や試行錯誤の経験を積ませるかが問われています。

    今年の新人研修では、基礎的な思考力や文章力を自分自身で鍛えるため、あえて生成AIを使わない場面も設けました。一方、現場に出れば生成AIの活用は前提になっていくでしょう。どこまでを人自身が身につけ、どこからAIに任せるのか。そしてAIを単なる効率化ではなく、人の思考や創造性を拡張するためにどう使うのか。その「育成の設計」が、これからの大きなテーマだと思っています。

  • 強い組織をつくるために、どのようなことを心がけていらっしゃいますか。

    私が今、大切にしたいと考えているのが、経営学者ヘンリー・ミンツバーグの組織論にも通じる「ミドルアウト」という考え方です。トップダウンでもボトムアップでもなく、現場を知り尽くしたマネージャークラスが縦横無尽に動き、自ら価値を創造していく組織こそが、イノベーションを生み出すという考えです。弊社では、社長から細かな指示が下りてくることはほとんどありません。もちろん数字の目標はありますが、その達成方法は現場のミドル層が自ら課題を見つけ、主体的にプロジェクトを推進しています。

    ただ、その分、現在のミドル層は多忙を極めています。人事考課や部下のフォローなど、担うべき業務は年々増えているのが実情です。だからこそ、生成AIを活用して定型業務を効率化し、ミドル層をそうした業務から解放することが重要です。目的は単なる生産性向上ではありません。彼らが本来やるべき課題発見や意思決定、部下との対話、時には他部署への「おせっかい」に時間を使えるようにすることです。雑談の中から中長期的な課題が見つかることもあります。そうした余白を取り戻すことが、組織の創造性につながると考えています。

  • 採用や人材育成においては、どのような体制で進めようとお考えでしょうか?

    会社の人事は、それぞれ歴史も思想も異なり、採用基準も一様ではありません。だからこそ、社外の知見を取り入れ、客観的な視点を提供してくれるパートナーの存在は非常に重要だと感じています。実は、課題の解決方法自体はそれほど多くありません。本当に難しいのは、「何が本質的な課題なのか」を見つけ出すことです。すなわち、「Finding is KING」です。もちろん他社の事例から学ぶことはありますが、それをそのまま模倣するのではなく、自分たちの本質的な課題は何かを考え抜くことを大切にしています。だからこそ私たちは、こちらが気づいていない課題を的確に指摘し、時に耳の痛い話であっても「本当はこうすべきではないですか」と親身になって提案してくれるパートナーを、何よりも大切にしています。

    レジェンダさんは、まさにそうした存在です。単に依頼された業務を遂行するのではなく、本質的な課題の発見から解決方法の提示、実行まで伴走してくれる点で、他社にはない価値を提供してくれていると感じています。野球で言えば、ピッチャーとキャッチャーのような関係でしょうか。互いに異なる役割を担いながら、同じゴールを目指す。そうした存在を真のパートナーというのだと思います。

  • 最後に、人事に携わる読者の方々へメッセージをお願いします。

    生成AIの進化によって、これまで人が担ってきた定型的な業務は、今後大きく変わっていくはずです。これはあくまで一つの可能性ですが、もしAIによって業務が大きく効率化されれば、将来的には週休3日のような働き方も現実味を帯びるかもしれません。生まれた時間を、スポーツや芸術、地域活動など仕事の外から新しい刺激を得ることに使えれば、そこで得たインスピレーションが次のイノベーションにつながっていくのではないかと考えています。

    生成AIとどう向き合い、人をどう育てていくのか。答えのない問いだからこそ、私たち自身も試行錯誤を続けています。同じ課題に向き合う人事・採用担当の皆さまと、知見を交換しながら、より良い人材育成のあり方を模索していけることを楽しみにしています。

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