Leggenda

Leggenda

×

労務コラムセミナーレポート
人的資本経営のレポーティングと、データのポイントとは

グローバル企業を中心に「人的資本経営」が普及している今、企業は人的資本に関する開示を求められている。
とくに上場企業は2023年度分より、有価証券報告書に3つの人的資本KPIを開示することが義務づけられており、早急に対応が必要だ。
しかし、具体的にどうすれば必要な項目を開示できるのか、よくわからないという企業も少なくないだろう。
本講演では、レジェンダ・コーポレーション株式会社の持田時宗氏と、パナリット株式会社のトラン チー氏が、人的資本経営において必要なレポートの概要や、活用するデータのポイントなどを紹介した。

セミナー概要

  • 【開示要請項目だけではない】人的資本経営において、本当に必要なレポートとは
  • レポートの具体的な活用方法: 企業価値を表す指標、採用活動でのアピールポイント、社員のエンゲージメント改善
  • レポートに必要なデータの種類
  • ここが落とし穴 データの収集・蓄積方法
  • 事例

義務だからやるのではなく、自社をアピールするひとつの手段として認識する

講演ではまず、人的資本経営におけるレポートの意義に対する言及があった。
本公演の参加目的は人それぞれだが、やはり23年度からの人的資本KPIの開示義務を受け、その対応方法を知りたいというニーズが最も高いだろう。
しかし、トラン氏は人的資本の開示を単なる義務と捉えるのではなく、自社の強みや魅力を社外にアピールできる手段であるという認識を持つべきだと語った。
企業がアピールしたい対象は、株を持つ投資家はもちろん、取引先や顧客、消費者、さらには採用希望者まで、多岐に亘る。そして、それぞれが求める情報もまた、多種多彩だ。
社外向けの人的資本レポートを作成する場合は、こうしたペルソナが複数いることを理解したうえで、自社ならではの独自性を盛り込み、いかに上手くアピールするかが大きなコンセプトになるのだという。

まず取り組むべきは、レポーティングに必要なデータの絞り込み

人的資本のレポーティングを行う上で、ベースとなるデータは必要不可欠だ。
そのためには企業の人事情報を可視化する必要があるが、人的資本の情報開示において、必ずしもすべてのデータが必要とは限らない。
むしろ、膨大なデータの中から、レポーティングに必要なデータだけを取り上げていくことが重要なポイントだ。
開示が義務化されている項目はもちろんだが、企業の独自性をアピールするために開示するデータや情報に関しては、一律の正解はないとトラン氏は言う。
たとえば、人的資本経営においては、ISO30414がよく参照されている。
ISO30414では58の項目が指標として定義されているが、そのすべてを網羅していなければ人的資本経営を実現できないかと言うと、そんなことはない。
自社の経営戦略、人事戦略を考慮したとき、とくに重要な論点は何かということを明確にすれば、自ずと必要なデータも見えてくる。
ここでパナソニックの事例が紹介された。パナソニックでは、採用課題を解決するためにさまざまなデータを収集し、最終的にその項目数は3,000を超えたという。
しかし、採用課題を解決するために立てた仮説を評価するためのKPIに必要か否かという観点でデータを取捨選択した結果、残ったのはわずか15項目だったそうだ。

「ゴールを決めて、そこから逆算して必要なものだけを揃える」

人的資本の情報開示のためのレポーティングでは、情報の絞り込みから取り組んでいくのがセオリーなのだ。

人的資本のレポーティングに必要な、質の良いデータの3つの条件

次に持田氏は、人的資本経営のレポーティングに必要な質の良いデータのポイントとして、以下3つを挙げた。

  • データ間の整合性がきちんと保たれていること
  • データを追加変更するきっかけが明確になっていること
  • データの情報が種類ごとに分類・管理されていること

大企業でよくありがちなのが、さまざまなプロセスを担当者で区切っているがゆえに、担当者を越えた領域間でのデータの整合性がとれていないという事例だ。

データの整合性が取れていないと、データの内容に齟齬が生じ、実務でトラブルが起こりやすくなるのはもちろん、人的資本のレポーティングで正確なデータを取り扱えなくなるおそれがある。

また、データは状況の変化に応じて随時追加・更新されていくものだが、その理由やきっかけをきちんとデータから読み取れる状態になっていることも、データの質を左右する重要な項目だ。

そしてこれらのデータを上手に活用するためには、データの情報が種類ごとに区分され、きちんと管理されていることが大前提となる。

「最近、タレントマネジメントシステムが流行していますが、今挙げた3つのポイントの要件を満たし、データを管理するという観点では、人事管理システムのほうが優位性があるという風に思っています」

人的資本経営は大企業だけに必要なものではない

2023年度から、有価証券報告書への人的資本の情報開示が義務づけられるのは、上場企業のみだ。
だからと言って、情報開示の義務がない中小企業やスタートアップ企業は人的資本経営と無縁というわけではない。
先でも述べたとおり、人的資本経営は情報開示が義務化されたからやむなく行うものではなく、組織や従業員の価値を的確に把握し、対外的にアピールしていくための有効な手段になり得る。
対外アピールするためには、まず自社内で組織マネジメントや人材マネジメントを定量的に行うことが必要不可欠だが、その過程ではさまざまな壁や障害が生じる。たとえばトップの権限委譲がうまくいかずに業務フローや意思決定が停滞しやすいなど。
そうした課題は昔からある中小企業にこそ起こりやすく、人的資本経営で改善すべき大きな障害でもある。

「企業はそれぞれ固有の人事課題を抱えています。この壁を乗り越えるためにどういうKPIを設定すればいいのかを考えるのは、大企業以外でも必要なことです」

以上、セミナーの内容をご紹介いたしました。みなさまのより良い人的資本経営のご参考になりましたら幸いです。弊社の関連サービスについてご興味、ご質問がございましたら、どうぞお気軽に下記のフォームよりお問い合わせください。

人事ナレッジ集トップに戻る