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全国の人事パーソンへのメッセージ

人事部長の想い切りトーク

Vol020想い切りトーク

変革するビジネスに対応する次世代の人材とは

取材日: 2017年2月9日

  • サノフィ株式会社
  • 取締役 人事・総務本部長 ジャパン パシフィック リージョン 人事統括
  • 北川 健二氏

インタビュアー北澤 孝太郎

※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。

サノフィ株式会社はフランスに本社を置くヘルスケア企業。 日本をはじめ世界約100か国に事業拠点を置くグローバルカンパニーだ。 複数の会社が合併してつくられた多様性あふれるカルチャーのなか、人事と人材に求められるものは。 人事・総務本部長の北川健二氏にうかがった。

PROFILE経営企画と海外経験で培ったスキルをもとに 人事の世界へ

  • 本日のインタビューでは、人事責任者を務めておられる北川さんに人事への想いの丈を語っていただきたいと思います。まずプロフィールからお聞きしたいのですが、慶應の法学部を出られて、医薬品業界を選ばれたのは何故ですか。

    いくつか業界をまわっているうちに、自ら何かを作っているところがいいなと考えていました。ヘルス・アンド・ウエルネス分野に特化した医薬品業界は、非常に社会的意義が高いと思い、医薬品会社の面接に行くようになって。一番フィット感があったのがエーザイでした。

  • 1994年にアメリカに留学されてMBAを取得されていますけれども、アメリカに行かれたきっかけや、どのようなキャリアを描きたいとお考えだったか教えていただけますか?

    国内の予算を担当していたのですが、ちょうど海外に現地法人を立ち上げる時期で、経営企画が必要だということで私もメンバーに入りました。そのときは日本から関わっていたのですが、海外の現地法人で仕事がしたいという想いが生まれてきたんです。全く違う文化の人たちと一緒になって、成果を出していくのは面白いだろうなと思って。夜中と土日に英語を勉強して、仕事でもなるべく成果を出すように頑張り、会社の制度で留学させてもらいました。このときほど自分で、キャリアを作りたいと思ったことはなかったですね。すごいエネルギーだったと思います。
    留学を終えて帰国後しばらくして、突然アメリカの当時の社長から電話があって、来月から来てくれと。新製品をアメリカでローンチするにあたり、現地のマーケティングを担当しました。全く違う環境で新しいものを世に出していく。僕のビジネスパーソンとしての人生のなかで最高の経験でした。

  • その後英国に行かれて、2005年に日本に戻られ、ここからですね。人事の仕事に携わるようになったのは。

    寝耳に水でした。担当したのはグローバル人事の立ち上げで、制度などのプラットフォームや育成プログラム、キャリアプランを整えるということだったのですが、いざ携わってみると人事の世界はこんなに深いものなのだと。自分の経験してきた様々な職種の中でも一番深い。例えば、他職種には勝つ方程式がある程度あります。けれど人事にはそんな方程式はなくて、ビジネスに応じて、あるいは部門のストラテジーに応じて、カスタムメイドする必要がある。人と人とのケミストリーは公式化できませんし、タレントをデベロップメントするときも、予想外の人が伸びていくなど、底知れない深みがあるなと。自分の中ではこれほどやりがいや面白みのある仕事は無いと思います。

  • 人事の仕事というと、組織を動かす、という大きなイメージが先行しがちですが、やってみると一人ひとりを見ていく必要もある、奥深い仕事ですよね。その後タレントマネジメントやグローバル人事を統括され、2011年、20年以上勤められたエーザイから転職をされましたね。きっかけは何でしたか?

    日本企業でずっと頑張ってきましたけれど、多国籍に貢献しているグローバル企業に対する好奇心が生まれてきました。アメリカ文化はある程度経験していたので、ヨーロッパ系がいいなと思っていたときに、サノフィからお話をいただいたんです。

MISSION 自ら考え、自ら行動する次世代の社員育成

  • サノフィに入社されてまず何をされましたか?

    サノフィには長く在籍している人が多く、サノフィが好きな人が多い。多くの会社が合併されて成り立っている多様性の会社なんですね。いろんな人がいて、いろんなバックグラウンドを持っている。まさにダイバーシティです。なので、社員を理解するというのが一番初めでした。もうワン・オン・ワンで。飲みにも行きましたし、とにかく毎日話していました。ただ、パフォーマンスあっての多様性なので、その順番だけは間違えないように、というのがまず私が出したメッセージです。あとはやはりチーム、部下の皆さんと、自分のやりたいこと、どうやったらできるだろうというのを話し合った。ビジョンはこうだけれど、それを整えるための戦略と戦術はどうしていくべきなのかということを、たくさん話し合って決めていきました。

  • なるほど。サノフィはちょうど、日本での創業期を終えられて、いよいよ成長期に入るというタイミングだったそうですね。その当時のミッションを教えてください。

    サノフィとアベンティスが合併したしばらく後だったんですが、どう生産性を上げていくか、パフォーマンスカルチャーにしていくかということを見据えて、プラットフォームを作っていくことでした。あとはジェネリックが出てきて、ファイナンシャルが難しくなるという時期でしたので、それらへの対策をしながらも、次に向けての新製品開発・販売の陣容や、リーダーシップを整えていくというのが一番の仕事でした。医薬品業界は、ビジネスモデルがこの10年で変わっていて、まさに変革期にあります。それに伴って求められるものが全く変わってきているので、そこをまず社員の皆さんと理解し共有化することが、大事なプロセスでした。

  • 想いを共通化、共有化することが大切ということですね。企業の変革期などのように、環境が変わっていくときに人事は何をすべきでしょう。

    まずは、エンゲージメントを高めるということだと思います。特に次世代に必要な、今後一緒にやっていきたい人に、どうやってエンゲージしていくかということです。そのためにも、次の世代に成長していく、成功に必要な人材って何だろうという話からはじめていきました。現場へは、どうやってワン・オン・ワンのダイアログを、ポジティブフィードバックをしていくか、研修などを通じて時間をかけて伝えてきました。その結果、だんだんとエンゲージする能力が現場にも付いてきたと思います。サノフィのいいところは、人に対する想いを抱いた人が多くて、脈々とその文化が根付いている。自分の部下を育てる、責任を持つという強い意識と想いを持っていますね。

  • まさに、事業と人をつないでいく、「人事」の仕事ですね。今後の事業に必要になる人材を明らかにして、探す。

    そうですね。どういう能力を持っている人が今後必要なのかという。それは私だけの努力ではなくて、各部門のリーダー、マネジャーに認知をし続けてもらって、リーダー全員がコンスタントに同じメッセージを伝えるということが大事だと思います。これからはこういう人が必要で、こういう人に働いてほしいと伝え続けていくことだと思います。

  • 今後このような人材が必要、ということを全社員に伝えるにあたって、プロジェクトなど、具体的にとられた手法があれば教えてください。

    「SHINKA」プロジェクトというのをはじめました。「SHINKA」という標語を掲げて、自ら考え、自ら行動する社員の育成を図ることが目的です。「SHINKA」は様々な意味を持ちますが、その中で我々は、「進化:evolution」「深化:deepening」「新化:renewing」と、「真価:true value」「新価:new value」を、全社で共有しています。具体的には「SHINKA」リーダーをアサインして、アクションプランニングやワークショップを行って、上には、下からの声を上げていきながら、今後はこういうビジネスになるのでこういう人たちが必要なんです、ということを言い続けました。さらに進化する過程で、皆さんが答えを出すように仕掛けました。デザインされたものを「はいこれ」と渡すのではなく、答えは現場、現場で違ってもいいので、一緒になって答えを出しましょうというやり方をしました。そういう進化アクティビティーを下からボトムアップで行ったのが良かったのかと。このプロジェクトは今でも続けています。

  • 「あなたはどうしますか」という問いかけ、つまり自分のあり方を問うということは非常に大事だと私も思います。一方で、実現出来る会社は珍しいですね。制度も変えられましたか?

    制度は大幅には変えられないんです。やはりグローバルカンパニーなので人事フレームワークはある程度決まっている。その中でジャパンテイストをどう入れていくか。その中でうまく日本に適用できるようにしていくのが私の一つ役割ですし、そこのバランス感覚を見るっていうのが、外資のHRDの醍醐味だと思っています。グローバルのポリシーは分かるけど、これをやると日本にとってどうだということをダイアログする。フランス人はダイアログが大好きなので、とにかくしゃべらないことが一番良くないんですね。何を考えているかをきちっと表現して。結論が出ないこともありますが、それでも分かり合ってくれるので、面白いなと思います。

  • 業界全体が変革期を迎える中、これからのサノフィにとって重要な人物というのは、どんな人物ですか?

    市場の環境変化が激しいので、変化を自分で感じ取って、自分の現状を自分で打破できる人だと思います。自分で考えて自分を変えて、スキルを上げていけるような人。

  • なるほど。マネジメントよりもちょっとリーダーシップ寄りの。

    そうです。上から言われるのではなく、自分で考えて自分で行動を変えて行く。自分で必要なものは積極的に得ていける人ですね。

  • 当事者意識があって、自分で変化に対して対応できるということですか?

    そのとおりです。あとは、ネットワーキングがすごく大事だと思います。それは社内だけではなくて、コミュニティーなどに自分からネットワーキングしていって、それをものにしていけるような人ですね。

MESSAGE 『人』への好奇心を忘れない

  • 社会的な変化が今起こってますが、御社の中でも人事的な変革への想いはありますか?例えば人事スタッフの方の変革など。

    人事スタッフの変革であれば、真っ先に思いつくのはグローバルへアクセスできることですね。そして自らを自己開示していくマインドセットが必要です。フランスの本社は日本の人事が何を考えているか知りたがっていますから。そして人事として、各領域での専門性を上げていくのはもちろんですが、やはり鋭いビジネス感覚が必要だと思います。自分がやっていることがビジネスにどうつながっていくかを考え、自分でPDCAを回し続けられるか。アウトソーサーにできないのはそこですし、アウトソースした業務をマネージする力も必要になってきます。一人ひとりがどんどんイニシアチブを取っていってほしいなと思います。

  • 今後の人事パーソンはどうあるべきでしょうか。今までとこれからでは、ここを変えた方がいいなどありますか?

    一つ目は事業成長を実現できるビジネスパートナリングのスキルを全員が身に付け、ビジネス感覚を磨くこと。二つ目は個を超えたコラボレーションによって、チームで一つの良きものを出せる力をもっとつけていかないといけません。人事ってファンクションごとに分かれていますよね。ビジネスHR、タレントアクイジション、オペレーション…と。会社全体や人事全体のことを考えると、人事機能の限られた世界だけで生きていくのではなく、世界を広げてコラボレーションをしたうえで最善の策を考えられる力がないとなかなかいいものが出せない。そのマインドセットとスキルセットが必要です。

  • その統合力は、コミュニケーションかもしれませんし、対話力かもしれないですが、それはどうやって身に付けたらいいと思いますか。

    そこは気づいたときにリーダーやマネジャーが逐次フィードバックするしかない。私もHRでタウンホールミーティングをやったときは、表彰制度で、個を超えたコラボレーションによるプロジェクトと成果、そして部門からのフィードバックを取り上げました。そういうシンボリックなものをやっているのと、個人にフィードバックしていくという、両方をやっていかないとと思います。

  • どういうスキルを磨いておけばそこにいきやすいでしょうか?

    非常に一般的な話ですが、まずはコミュニケーションです。自分を理解してもらうより先に相手を理解するとか。あとは人事にとってではなく、何が本当にビジネスにいいんだろうかと考えるところから始まります。

  • ビジネスのことを勉強しないと駄目だよと。実体験としてビジネスの中に身を置いた、ビジネスパーソンであってほしい。

    そうですね。人事が楽になるからこういう答えです、ではいけません。私は10年しか携わっていなので、人事のスペシャリストと言うには短いかも知れません。ただ、ビジネスと統合する力という部分ではエキスパートだと自負しています。今後も、人事とビジネスをつないでいきたいと思っています。

  • 最後に、世の中の人事パーソンに向けてメッセージをお願いします。

    奥が深くて、いくらでも底なしに学べる分野だと思うので、可能性を信じて常に学んでいってほしいです。これは知っています、これはできますという具合に、あまり自分をフィックスしないほうがいいと思います。100点が取れても、人事に求められているものの100点ではないのです。あとは、プロセス至上主義になるなということです。プロセスはやっぱりタレントや組織を活かすためにあるので、タレントレビューやタレントマネジメント、パフォーマンスマネジメントはプロセスで、常にプロセスの中には人がいるということを意識してほしい。人をプロットするのが仕事ではなくて、プロットしたあとにどうなっていくか。この人が何をやっていきたいのか、何が足らないのか、上司とどんな会話をしているのか。そこを見にいく力、つまり好奇心が大切なのです。そこからがスタートです。本当の人事の価値はそこから生まれ、目に見える成果につながっていくのです。

  • ありがとうございました。
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