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全国の人事パーソンへのメッセージ

人事部長の想い切りトーク

Vol010想い切りトーク

キーワードは『選択肢』

取材日: 2016年12月11日

  • グラクソ・スミスクライン株式会社
  • 人財担当取締役
  • 四方ゆかり氏

※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。

イギリスに本社を置く、世界トップクラスの製薬会社グラクソ・スミスクライン。変革の時期を迎えた医薬業界において、業界の常識を超えた企業活動の透明性に取り組んでいる。企業を取り巻く環境が変化する中で、これからの企業のあり方、それを支える人事の役割を、人財担当取締役 四方ゆかり氏に聞いた。

PROFILE就活失敗、転じて福となす。

大学卒業後、明治時代から続く老舗商社に入社した四方(よも)氏。語学を活かし、バリバリと働く商社マンならぬ商社ウーマン、そんなイメージを持っていたが、配属されたのは人事部。人事の仕事を通して思った疑問「女性はなぜ海外出張できないのか?」それを上司にぶつけると、思いがけない答えが返ってきて愕然とした。

「親御さんから預かった大事なお嬢さんに何かあったら、困るでしょ?」

学生時代は、男女の差があると実感したことはなかった四方氏が、初めて社会の現実を目の当たりにした出来事だった。自分が女性であることは変えられない。選択肢は、会社が変わるのを待つか、自分から外へ飛び出すかの2つだった。

そんな折、たまたま参加した知人の集まりで、GEでアシスタントを募集しているという話を耳にする。「私も、受けていいですか?」と、社会経験三カ月で、経験者枠に飛び込み、そのガッツとポテンシャルを見込まれ採用された。

「当時、GEはジャック・ウェルチの改革による成果が出始めた頃で、グローバリゼーションの一環で、日本にも積極的に投資していました。GEの成長フェーズと合い、運が良かったです。人事の分野も、アメリカ本社では、アカデミックな学者たちと組んで、新しい試みを次々と社内に取り込んでいました。当時はまだ外資系企業でさえ、人事といえば、社員の給与計算をきちんとして、社員のお世話をする、という企業がほとんどでしたが、GEではすでに人事はリーダー(経営者)と同じ目線で、ビジネス戦略に沿って、人事のプロとしての業務を行うことを実践していました。Advanceな戦略や制度を生み出している時期でもあり、多くを学ぶことができました。」

GEでの15年間をそう振り返る四方氏は、GEの人事リーダーを養成するプログラムに参加した初めての日本人でもある。

GEで経験したことや学んだことが、他社の人事でも通用するのだろうか? そんな気持ちから、外資系保険会社へ転職。その後、外資系IT企業などを経て、2011年グラクソ・スミスクラインへ入社。GSK日本法人としては、初の女性役員となる。

「転職先は、自分にとってチャレンジングな部分がある場を選びます。やれるかどうかはわからないが、やってみたい何かがそこにあるか。それから、企業のトップが人事の問題を解決したいというニーズを持っているかどうか。最初の就職の教訓から、自分が貢献できる場があるかどうかは、しっかりと選びます(笑)。」

これまでの多彩な人事経験を見込まれ、保守的と言われる医薬業界の人事改革を担う四方氏。人財担当取締役として、大きく変わっていくであろう業界や社会の環境に対応すべく、企業の進化を人事サイドから後押しする。

MISSION 「信頼」と「透明性」のための取組み

2013年12月、GSK(グラクソ・スミスクライン)の英国本社からグローバルに配信されたリリースの内容に、医薬業界関係者は驚いた。下記が、そのリリースのタイトルである。

『GSK、患者さんの利益を確実に最優先するために、営業及びマーケティング慣行を変更
個人別の売上目標を排除する報酬制度を新たに営業組織に展開
2016年初を目途に医療関係者への講演料の支払い、学会参加のための費用支払いをやめる取組みを開始』

それまでの業界の慣例や常識を打ち破る内容は、企業活動の信頼と透明性の確保、利益相反の排除へのコミットメントであり、GSKの変革宣言でもあった。業界他社でも変化の兆しはあるとはいえ、この内容は、医薬業界において、いまだ斬新に映る。それほど、保守的な業界である。このような大きな変革期こそ、四方氏の経験は活きることとなる。

「人事も変えていく必要がありました。他の業界ですでに変化を体験し、切磋琢磨してきたリーダーが必要というニーズに、私としても、それまでの経験や学びが役に立つと思いました。」

医薬業界を取り巻く社会環境の変化に対応して、企業の制度や風土をあるべき方向へ「進化」させていくという価値観を、グローバルに共有している。

「GSKは全世界的に、元々コンプライアンス意識が高い企業です。日本では、日本製薬工業協会が接待廃止を決めるより以前から、接待をやめていました。私たちは、患者さんに対しても、医療関係者に対しても、限りなく透明性を持ちたいと考えています。講演料を支払っている製薬会社の薬だから処方されたのではなく、その薬が患者さん一人ひとりにとってベストな選択肢だから処方された…そういう透明性のある、医療関係者との協働のあり方を追求していきたいのです。」

すでに日本のGSKでも、MR(Medical Representative=医薬情報担当者)の人事評価指標に、個人の売上数値目標は一切ない。それに替わる新しい指標である「顧客からの評価」「情報提供の質と量」「専門的な知識やスキル」などから総合的に評価する。

今後は、MRによる情報提供活動に加え、医学・科学における高度な専門性、学術知識や学位を持ち、医学的・科学的な面から製品の適正使用の推進、製品価値の至適化などを支援するMSL(Medical Scientific Liaison)を増やし、質の高い情報提供や、化学に根ざした議論により、医療関係者とのさらなる信頼関係の構築を図っていく。

MESSAGE ダイバーシティに対応できる「選択肢」があるか

「昔とは違い、企業の中でも、このキャリアをたどればこうなれる、ということはない時代。これからの人事のキーワードは『選択肢』だと思います。」

キャリアの積み方も多様化し、価値観も個々で違って然るべき。例えば、管理職を目指したい人もいる一方で、管理職になりたくない人だっている、また人生のフェーズで優先順位も変化する。それらの違った価値観を受け入れることができる社風の中で、多様な人事制度や社内制度と、それらの組み合わせを用意し、社員が自分に合ったものを選べることが理想だという。リスクも含めて最終的に選ぶのは個人。できるだけ多く、その時代にあった「選択肢」を用意すること、社員がそれぞれのメリットを理解した上で、選択できるようにすることが人事の役割だと話す。

「人事パーソンには『意味のある知識と経験』を増やすことを勧めます。理想としては、『よい人事』とはどうあるべきかのイメージをきちんと持っている上司の下で働くこと。でも、そういう機会がなければ、その経験を持っている人の本を読んでもいい。本の内容が心に響いたら、講演会や講座など、直接会いに行けばよい。よいメンターを持つことは、大切です。」

「人事の仕事では、社内でさまざまなことが起こります。昨今の世相がどうしても反映されます。規則の逸脱も含め、あり得ない考え方や行動をする社員が発生します。しかし、どこかで裏切られるかもしれないけれど、『本来、人間は悪い人はいない』という楽観的な考えが人事には大切だと、思うんです。人事が安全対策やリスクヘッジばかりになったら、それでは会社が前に進んでいくことができない。人事のプロとして必要な要素はたくさんあるけれど、これは重要な素質だと思います。」

「よい環境があって、よいマネージメントがあれば、人はよい仕事をする。私はそう思います。」

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