全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol026想い切りトーク
取材日: 2019年2月4日
インタビュアー北澤 孝太郎
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
チャブは、54ヶ国で事業を展開する世界最大級の損害保険会社。グローバル拠点展開を強みとし、世界中に約30,000人の従業員を抱える。日本法人は2016年に、親会社のエース・リミテッド(スイス)がチャブ・コーポレーション(米国)の買収を完了し「チャブ・リミテッド」へ社名を変更。それを受けて同年、エース損害保険株式会社から「Chubb損害保険株式会社」に社名を変更した。新しいスタートを切った同社で人事部長を務める南由紀氏にお話をうかがった。
いいえ。高校を卒業してすぐです。高校生のとき、ピアノを習っていまして、ピアノの先生に「大学どうするの?」と言われました。ピアノで大学進学できるレベルではないと自分でもわかっていたので、「英文科で英語の勉強をしたいと思います」というような話をしました。
すると「日本の大学の英文科じゃなくて、留学という道もあるんじゃない?」と言われて、「ああ、そうか!」と。
実は、私には双子の姉がおりまして、2人でアメリカに行くなら親も許してくれるだろうと思い、姉を誘って留学しました。
そうですね。アメリカの大学の3年次の学期が終わった頃、日本に帰国し就職活動をしました。
その中にAIU(現AIG損害保険)があり、内定をいただきました。
全く予想に反していました。当時は、総合職の中でも女性はまだまだ少なかったです。新卒は基本、損害サービスか営業に配属されます。自分もそうなるだろうと思っていたら、入社3ヵ月でいきなり「7月1日付で人事部です」と言われて、自分だけなぜ?と思ったのを覚えています。ただ、その頃はまだ、「人事」というのに、腹落ちしていなくて。同期が外に出て営業したり、お客様の対応をしているのを見ているうちに、外に向かって仕事をしたいなと、思いました。大学でファイナンスを専攻していたので、ファイナンスに関わるような仕事をやってみたいと思い金融情報サービス会社に転職しました。
4年ぐらいです。ベンチャーで新しい会社だったので、どんどん人が増え、私も入社2年で10人ぐらい部下を任されることになりました。そうすると今度は、皮肉なことに、人や組織についての知識がないとマネジメントはできないんだということに気づきました。ただ、外に向かってコンサルティングをするという仕事は、お客様にも感謝されますし、すごく楽しかったです。それで、コンサルティングをやりたいなという気持ちが強くなり、人事・組織のコンサルティングの仕事に就きました。それがタワーズペリン(現タワーズワトソン)でして、そこから10年ほどいろいろな会社の人事コンサルをやりました。
一緒に働く仲間が自身のキャリアにオーナーシップをもっていて、どういうスキルや経験ができるかを、みんな真剣に考えていて、すごく刺激を受けましたね。お客様に決められた期間、スコープの中で、最大限のバリューを出すためにどうすればよいか。そこで思考力と分析力が徹底的に鍛えられたと思います。
そうです。私が人事コンサルを始めた当時は、コンサルタントを入れて人事制度改革をやりましょう、という時代でした。それこそ、C&B(Compensation & Benefits)系を柱として、徹底的にシミュレーションをして、人事と一緒に経営に提案していくスタイルです。あとはインセンティブをどうしていくかとか、職務ベースの人事制度を導入していくとか、ある意味新しいツールが求められていた時代ですね。
カルチャー浸透の重要性を実感するは前職のウォルマート西友に入ってからです。小売は、それまで経験がありませんでしたが、他の業界と比べて身近に感じました。今日の結果が明日にはわかりますし、改善を繰り返す中で答えを見つけていくビジネスです。非常にスピード感があるし、ユニークで他に類を見ないウォルマート・カルチャーも、面白いと思いましたね。
たくさん会社がある中で、なぜこの会社で働いているのかというのは、自分が働く上ですごく重要なのだと気づいたのもウォルマートにいたときです。
そうなんです。自分が最初にキャリアをスタートさせた損保業界に、20年の時を経て戻ってきたわけです。何もわからない自分を、社会人として教育してくれたのがAIUだったので。チャブに入社するにあたり、自分が外に出ていろいろ学んで、経験してきたことを恩返しできればいいなという意識がありました。
私が入社したとき、同時期にブラッド・ベネット代表取締役社長兼CEOが新しく就任しましたので、社長や役員と私が信頼関係をいかに構築できるかが最初の勝負だろうと思いました。それが私のチームが信頼されるまず第一歩になると思いました。
社長が考えていることを理解できないと、人事は任せてもらえないと思いましたので、彼の考えていることや想いを理解し、言葉の壁はもちろんありますが、どんどん入っていこうと。
カルチャーの浸透ですね。社長が着任したときに、「自分が新しい会社に来たときに見るポイントが3つある」と言いました。それが「Energy」「Discipline」「Execution」です。最初の役員会議だったと思いますが、それを聞いたとき、すごくわかりやすいと感じました。また、「Energy」が一番にあがったことも、人事としてはありがたかったです。社員がエネルギーにあふれているか、組織にやる気があるか。そこに主眼があることがわかり、人事として、それをサポートしていくにはどうしたらいいのだろうと、すぐに考え始めました。
これは、日本語に直すのは今でも苦労するのですが、「プロ意識」と言ったほうがいいのでしょうか。結果を出すためには、日々の努力だとか、約束を守るとか、やると言ったことは必ずやるということが必要になってきます。そういうことを「Discipline」と言っています。
これは、本当にチャブが求める人材、人物像です。Executionできる人。その裏にEnergyがあり、Disciplineがあるので、最後の結果がExecutionになります。もし、ひとつだけと言われたら、この言葉にすべて包含されていると思います。
忖度するというのは、「これを言ったら怒られるだろう」とか、「これを言うと気に障るので聞いてもらえないだろう」と思うから、言わないわけですよね。そうならないためには、リーダーがいかにオープンだよと思わせることができるかだと思います。
社長は、ずっとAccessibility(風通し)ということを言っていますが、たとえば、社長と私で1ヶ月に1回、少人数を集めて、インサイトランチというランチミーティングを行なっています。それは何かというと、「社員のどんな声にも耳を傾けるよ」という場です。このような取り組みから、人と人とが仕事をしていくとはどういうことなのかを深く考えて、組織を良い方向に持っていくということを、積み重ねているところです。
はい。社長が各役員に言っているのは、“Accountable each other”ということです。そういう意味では、人事に関しては任せたと。“You can do it”ということなのです。でも、もし君がやらないなら他の人がやるよという厳しさもあります。
そうですね。昨年、社員の声をもとに役員で何度も話し合い“Common Purpose”(共通の目的)を作りました。これは「なぜチャブで働くのか?」という「なぜ」の部分を定義しようと考えたものです。契約者であるお客様に対して、代理店やブローカーなどのビジネスパートナーに対して、社員に対して、どんなバリューを提供していくのかということを具体的な言葉にしました。1つ目は、保険会社として、お客様が困難に直面したとき、確実に力にならなければならないということ。2つ目は、2020年にチャブは日本で創業100周年を迎えますが、これまで二世代、三世代に渡り仕事をしてくれている代理店さんもたくさんいるわけです。この先、世代が替わっても、将来に向かって、チャブとビジネスをしてよかったと思ってもらえるよう、我々は行動しなければいけないという思いが込められています。3つ目は、一緒に働く社員に対して互いが成長の機会、育成に対してコミットしますと。この3つの”Common Purpose”を基に、去年、リーダーシップ研修を行ないました。
私たちは、お客様が困難に直面した時、お客様に確かな安心と補償を提供します。
私たちは行いのすべてを通し、後に続く者たちの良き先人となるよう務めることで、今の時代を切り開いた諸先輩方やディストリビューション・パートナーが残してくれた貴重な財産に敬意を表します。
私たちは、高い基準と倫理観を掲げ、その実践を通して将来のリーダーを育成します。
“Common Purpose”を理解しながらチームを引っ張ってくれるリーダーというのが、まさにチャブが求めるリーダーシップです。カルチャーを柱としたリーダーシップ研修をした際に、トレーニングに参加したマネージャーが、「カルチャー元年ですね」と言ってくれました。私もタウンホールミーティングで社員に向けてカルチャーの重要性について話をさせてもらい、“Common Purpose”について理解してもらうために、繰り返し発信しています。機会があるごとにカルチャーと結びつけて話をしていく、その努力を惜しまないようにしています。カルチャー浸透に近道はないですよね。
ビジネスから信頼される、相談される存在にならないと、人事はもういらないと言われるときが来ると思います。スキルだけなら、外に求めることもできますが、相談はやはり外にはできないわけですよね。会社の状況をわかった上で、どんなソリューションを出してくれるのか、どんなアドバスを出してくれるのかというのが、人事に求められるものです。「相談される人事」というものを各自が考えていかなくてはならないでしょう。相談されるためには信頼される必要があり、良いアドバイスをするには、知識やスキル、経験も必要になります。
抽象的な表現かもしれませんが、人事は、会社にエネルギーを与える存在であってほしいと思います。人事は、人を育てるためにいる存在ですから、当然、誰よりもどんな部署よりも、社員のモチベーションをリードしていかないといけない。人事は、やはりポジティブなのがいいですね。いつもポジティブでいることは難しいのですが、それが求められるのが人事ではないでしょうか。
私の場合は、常に「なぜやっているのか?」ということを自分に問いかけるようにしています。「Why」という部分ですね。仕事をする中で、良い結果が出ることもあれば、そうではないこともあります。信念があってやったことならば、失敗しても、もう一度チャレンジできます。ネガティブなことが起きたからと言って、そこであきらめてしまえば終わりです。もう一回やろうと思える人は、「なぜ自分はこれをやっているのか」ということを、自分に問いかけられる人だと思います。
人事としては、社員がこの会社で働くことを誇りに思ってくれることが、非常にありがたいですね。幸せに働いている人がたくさんいることで、この会社で働きたいと周囲のみなさんが思ってくれます。働く人が幸せであることがとても大切なのです。